日本の製造業の勢いが衰えてきているのを感じます。企業理念の切り口から対応策について提言します。
Contents
1.はじめに
組織マネジメントにおいて、理念体系を重視する風潮が高まっています。
会社の理念を示すことで価値観の共有化を図る。または価値観を共にできる人材を採用するといったことを目的としています。
特に新しく設立された会社では、経営者の考えを反映した新しい経営理念が設定され、生きた言葉として現場で浸透しはじめます。
一方、ものづくりを中心とするある程度歴史のある企業ではどうでしょうか。
昔からあるありがたい言葉、歴史の重み、のようなものは感じても、生きた言葉として浸透してないという課題があるのではないでしょうか。
社員にどう理解させ、社員の行動のベクトルをどう一致させるか、頭を悩ませている話を聞きます。
ここでは、特にものづくりの技術者を対象として、私の経験やリサーチ情報などから、企業の理念体系について解説していきます。
2企業理念とは
ここでは、企業理念としていますが、会社によって、経営理念、信条、社是、社訓、クレド、ビジョン、行動規範、……様々な名称で設定されています。
経営者の経営哲学、目的、信念などを明文化し、その企業の使命や基本姿勢などを社内外に向けて表明するものです。
基本的に会社が存続する限り、受け継がれる不変的・持続的なものになります。
ピラミッド形状で階層的に設定している場合が多くあります。
3.最近の理念体系あれこれ
近年、独立して起業する方が増えています。
働き方の多様化、終身雇用の崩壊、起業ハードルの減少(法的緩和、サポートの充実)、IT環境の発展(高度化、汎用化、低価格化)が要因とみられています。
企業した時や、会社が大きくなって従業員が増えるとき、企業理念の設定をしています。
このような背景もあって企業理念に関して解説するWEBサイトが多数あります。
また、現在成長が著しいGAFAの企業の企業理念(後述)は、やはりその企業の躍進を裏付けるものであったとの評もたくさんあります。
以前と違って他社の事例や今の傾向をインターネットで調べることができます。
企業理念に関し、硬直化している課題があるならば、こういうものを活用して彼我分析をしてみるとよいと思います。
4. ものづくり企業の理念体系の課題
さて、ものづくりの企業では企業理念の扱われ方はどうでしょうか。
経営側は重要視しているようでも、現場では『そんなものあっても、なくても変わらない。』と考えている人が多いと思います。
そして、そういう企業ほど、社内組織が硬直化している実態がないでしょうか。
今、ものづくり技術者に元気がないといいますか、勢いが衰えている風潮を感じています。
本人たちのモチベーションは低下してないし、個々の技術者も経験を経て成長していると思います。
でも、ともすれば世の中の変化のスピードについていけていない状況が散見されると思うのです。
さて、企業理念など古い遺物、古い慣習と思っていないでしょうか。
見つめなおすべきは企業理念です。企業理念は普遍的なものであり、変わらずあるべきものです。
そして、変えるべきは、自分の認識やものの見方・考え方の方です。
これが今は逆になっていないでしょうか。
新しく起業したベンチャーこそ企業理念をどう設定するかに悩み、それを使って篩(ふるい)にかけて適した人材を集めています。
大企業も同じです。変革が望まれるタイミングでこそ、企業理念による社員のベクトルを合わせた新しいチャレンジが望まれるのだと思います。
5.課題解決のための提言
主にものづくり企業の技術者をイメージして5つの対策を説明します。
・企業理念の指導は熱量
この種の教育を行うときは、熱量のある人が指導しなければなりません。例えば松岡修三さんのようなキャラクターで適任でしょう。もしくは経営者が自ら指導に乗り出すことが必要になります。
以前の経験ですが、企業理念の浸透を目的とした社内教育の機会に、講師に会長がきてくれた時がありました。この時、知識として知っていたはずの経営理念体系が改めて納得できたのです。経営の思いが伝わって腹落ちすること、『大事なことはこれなんだ。』という思いを伝える必要があります。これは単なるルール設定ではないのです。
・人事評価に使おう
人事評価に活用するのがひとつの方法です。
経営の方針を理解しそれに沿った行動をしているか、どうかについて評価シートで点数付けを行い評価するのです。
成果を定量化して評価するのがよいとされる風潮がありますが、技術開発は営業成績などと違い数値化できない場合が多いです。全員チームでアウトプットを最大化するのがミッションであるはずなのに、個人評価の最大化を求めて各人が行動し始めたらギクシャクすることになります。
・海外現地の技術者にも同じフィーリングを求めよ
時に海外の現地採用のスタッフと協業で仕事をするとき、日本人の感覚のようには物事が進まない場合があります。契約社会であり、ボス以外の指示を聞く必要がないと認識が一般的だからです。
この時、例えば『後工程はお客様』、という企業ポリシーがあったとします。
業務依頼で現地スタッフとも揉めることがあったら、それは企業ポリシーに沿ってるのか、ということを問いかけるとよいのです。多分に有効です。
・会社として何か新しいことにチャレンジする。その時、そのプロジェクトなりの位置づけを会社ポリシーに絡めて定義づけをする。
IT業界の人は、プレゼンで自分の意図を説明するのに長けている人が多いように思います。
製造業では顧客に対してはアピールしても。自社内ではそのような装飾は無用と考えている節があるように思います。
決して華美に行う必要はありませんが、どのようなシンプルなキーワードで人に気づきを与えるか、ということは組織運営の中で重要な要素の一つです。
そういう戦術的な活動で成功体験を重ね、社内に実績として残していくのは会社ポリシーを定着させる重要な要素です。
また、逆の見方をすればポリシーにこだわったからこそ成功するという実績を目に見える形で残すというそのものの活動になります。
このような考え方で組織や技術を改革していくことが常に求められています。目的と手段を取り違えてはいけません。
・他社の経営理念を分析し、活用しよう。
インターネットを活用すれば、時間をかけずに良質な情報を入手することができます。情報を集め、自社向けに適しているところをまとめて、インフォメーションとして流したり、集合教育の機会に活用するとよいと思います。他社事例は生きた教材に近く、きっと従業員に刺激を与えます。
このような情報は常に変化、進化します。
そういう情報を身近にし、変化を常に感じることが、マインドを頻繁にアップデートさせるのに有効となります。
6.他社事例
代表的な企業理念を例として以下に記載しますが、ぜひご自分で調査されることをお勧めします。
トヨタ自動車株式会社
1.内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす
2.各国、各地域の文化、慣習を尊重し、地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する
3.クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む
4.様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する
5.労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる
6.グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす
開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する
引用:https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/guiding-principles/
オーソドックスな内容と言えますが、メガカンパニーでありながら、その規模を維持しながら進化し続けることを目指すトヨタの企業理念らしいです。多くの従業員(74千人)を統率し、世界でカイゼンにこだわる日本のものづくりを推進するには企業理念の浸透も重要になることでしょう。
永谷園
味ひとすじ
「味ひとすじ」とは、
1. 創意と工夫で商品・サービスを常に考え、創り出すこと
2.お客様に実感、満足していただく「おいしさ」を提供し続けること
3.食を通じて幸せで豊かな社会づくりに貢献していくこと
引用:https://www.nagatanien.co.jp/company/philosophy.html
いつもお世話になっています。お茶づけ、インスタントインスタントお茶漬け美味しいです。
やはり、食品メーカーが食にこだわる姿勢を知ると、安心できるし、その会社の商品のファンになりやすいです。
インターステラテクノロジズ
MISSION
目指すのは、世界一低価格で、便利なロケット
宇宙ベンチャー「インターステラテクノロジズ」は堀江貴文さんが創業の初の民間ロケット会社です。以前のブログでコメントしてますので参考にしてください。
目的がはっきりしていて、多くの人にシンプルに伝わる内容になっていると思います。
最後にGAFAのミッションを紹介します。
『各企業のミッション=>仕事の仕方がミッションに合っている=>そして実際の企業成長に表れている』と評される代表例です。
Googleのミッション
Our mission is to organize the world’s information and make it universally accessible and useful
Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにすることです。
Googleのビジョン
To provide access to the world’s information in one click
ワンクリックで世界の情報へのアクセスを提供すること
Amazon
Amazonのミッション
Amazon is guided by four principles: customer obsession rather than competitor focus, passion for invention, commitment to operational excellence, and long-term thinking.
Amazonは4つの原則によって導かれる:競合他社に集中するのではなく顧客にこだわること、イノベーションへの情熱、卓越した運営へのこだわり、そして長期的な思考。
Amazonのビジョン
Our vision is to be earth’s most customer-centric company; to build a place where people can come to find and discover anything they might want to buy online.
地球上で最もお客様を大切にする企業であること、お客様がオンラインで求めるあらゆるものを探して発掘し、出来る限り低価格でご提供するよう努めること
Facebookのミッション
to give people the power to build community and bring the world closer together.
コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する
Facebookのビジョン
People use Facebook to stay connected with friends and family, to discover what’s going on in the world, and to share and express what matters to them.
人々はFacebookを使って友達や家族とのつながりを保ち、世界で何が起こっているのかを発見し、彼らにとって重要なことを共有し表現する。
Apple
Appleのミッション・ビジョン
Apple revolutionized personal technology with the introduction of the Macintosh in 1984. Today, Apple leads the world in innovation with iPhone, iPad, Mac, Apple Watch and Apple TV. Apple’s four software platforms (iOS, macOS, watchOS and tvOS) provide seamless experiences across all Apple devices and empower people with breakthrough services including the App Store, Apple Music, Apple Pay and iCloud. Apple’s more than 100,000 employees are dedicated to making the best products on earth, and to leaving the world better than we found it.
アップルは1984年にマッキントッシュを発表してパーソナルテクノロジーに革命を起こしました。今日、アップルはiPhone、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TVでイノベーションで世界をリードしています。Appleの4つのソフトウェアプラットフォーム(iOS、macOS、watchOS、およびtvOS)は、すべてのAppleデバイスにわたってシームレスなエクスペリエンスを提供し、App Store、Apple Music、Apple Pay、およびiCloudなどの画期的なサービスを人々に提供します。Appleの10万人以上の従業員は、地球上で最高の製品を作り、私たちが見つけたよりも良い世界を去ることに専念しています。
7.まとめ
企業理念は、組織マネジメントの一番の根幹となります。
同じ方向を見て進まなければ、その推進力が削がれるのは道理です。
一方、形だけ大事にしているのは最悪の状態です。その時だけで考えれば、よくも悪くも直接的な影響がないように見えます。だから従業員には悪意はないし、問題意識をもっていません。
しかし、それが長い期間積み重なった時、硬直した考え方の人が多い組織になっていってしまうでしょう。
それは他社と比較してみたらご理解いただけるのではないでしょうか。
今回少し踏み込んだ言葉を使い、ものづくり企業の特に技術職場向けに、私なりの提言をまとめました。参考になれば幸いです。