以前のブログで、私がいる中国企業では罰金が時々発生することをリポートしました。
最近また、社内で罰金の処罰が発表されました。
日本ではなじまない従業員への罰金の事例を参考に、ものづくり企業での働き方、ひいては『転職の勧め』について解説します。
参照 過去ブログ=中国ものづくり 中国と日本の違い
中国企業の罰金の罰則
1.社内の罰金事例
以下は私の会社の最近の罰金事例です。
- 製造現場で作業員がスマホを就業時間内に使用した。 罰金100元
- 決められた時間よりも早く昼食をとっていた。 罰金100元
- 休み時間以外に喫煙所で喫煙していた。 罰金300元
(ただし初犯につき200元免除で罰金100元)
2.掲示方法
会社の中には、掲示板のようなものがありません。
全員WeChat(微信)の会社のグループに入ってます。
LINEグループと同じようなものです。
この中で通知文章が全員に送られます。
WeChatグループの活用は日常的なので、全員が見ることになります。
総務連絡以外に、残業の指示や、顧客が監査で現場にくるとか、不具合が発生した時の対処とか、全てここで連絡が来ます。
ちなみに、日本企業にいた時は、Eメールを主な連絡手段として使っていましたが、中国ではEメールよりもWeChatで連絡を取ることの方が多いです。
Eメールをメインツールとして使っていません。
日本では罰則規定を設定できない
日本では、従業員への罰則はできないようになっています。
ここでは東洋経済ONLINEの記事を参考に要約させて頂きます。
『従業員への「罰金」はいったい何がマズいのか』2017/03/08
記事から引用
従業員に対する罰金制度が原則違法となる法的根拠は、労働基準法第16条である。
労働基準法 第16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
つまり、「目標未達なら罰金○○円」とか「備品を壊したら罰金○○円」といったような社内制度は原則として違法となる。
ただし、例外的には罰金制度も設定が可能。もちろん就業規則に明記されている必要があります。
労働基準法 第91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
従業員への罰金規則の是非を考える
私がいる中国企業のこの罰則ですが、少なくとも、社内の従業員に不満はないし、ルールを定着させるのに、効果が発揮されているように見えます。
設定金額のレベルといい、アナウンスの仕方といい、ルールを周知させる効果、意識づけや抑止効果あります。そして、理不尽な設定とは思いません。
特に、現場の人間は入れ替わりが日本より多いので有効かと思います。
一方、前述の東洋オンラインの記事では、仮に合法であったとしても、労務管理として罰金制度は本当に必要なのだろうか。という疑問を投げかけています。
記事から引用
たとえば、遅刻を例に考えてみよう。会社としては従業員に遅刻してほしくないことは当然である。しかし、遅刻を防ぐための手段が、「罰金でペナルティを与える」ということで本当に遅刻問題に対する解決になるのだろうかということには一考を要する。
私はこの意見には反対です。
この法律自体は直ちに改正を考える必要があるものでもありませんが、企業側もより柔軟な働かせ方を要求できてよいのではないかと思うのです。
中国では『996勤務』が話題に
中国でもブラックな働き方を揶揄する言葉として、「996」勤務という言葉があります。午前9時から午後9時まで週6日勤務することを指します。社会的な問題となっています。
しかし、阿里巴巴(アリババ、Alibaba)の馬雲(ジャック・マー、Jack Ma)会長が以下の様に述べて大きな話題になりました。
WEBニュースより引用
「多くの企業でこの問題がある。個人的には、『996』勤務ができること自体、非常にラッキーだと思う。多くの会社、多くの人は、『996』勤務をしようと思ってもそのチャンスが無い。若い時に『996』勤務しなかったらいつできるのか。一生『996』勤務をしなかったら、それを誇りに思うとでも? 今日、中国のBAT(B=百度<Baidu>、A=アリババ、T=騰訊<テンセント、Tencent>)のような会社で『996』勤務ができるということは、我々がやってきたことが報われたということだと思う」
この意見には同意です
- このような企業が世界を席巻し、そこでは雇用が創出・維持される。
- 既存の日本企業がジリ貧で雇用を減らし、景気悪化・失業率上昇する。
もし、こういった事態になれば、この意見を否定できないものになるでしょう。
しかも、このような大企業で働く従業員の場合、その働き方が嫌なら、スキル・経験を活かして容易に転職できるのですから。
私が働いている会社でも、2週間休日無しで働く場合があるのですが、従業員から不満は出ません。休日出勤の割増が大きいからです。そして、その状況が嫌な人はやはり転職を検討するでしょう。
そういう人が増えないように、会社側も給料だけでなく、従業員福利にも気を使っています。
中国では、従業員の首切りが簡単できますが、労働者側も転職するのは難しくなく、失職を日本ほど深刻に考えていない雰囲気があります。これはとても良いことだと感じています。
労働市場で十分な企業間競争があり、企業側にも労働者側にも選択肢があることが、就業に対し健全な意識を持てるのだと思います。
やや企業側優位となるのは否めない感がありますが、中国でも急速に企業の発展と競争の中で労働環境が整備・改善されていくのでしょう。
日本の方がスピードに乏しく、よっぽど社会主義的に感じるのは皮肉な状況です。
あるべき姿
自分が20代の時(20~30年前、一部上場自動車部品メーカー)は、特急の要求を徹夜仕事で対処することがよくありました。
顧客からは感謝されるし、深夜残業代の割増は高いし、しょっちゅうあるけど、常にあるわけではない。そんな状況は今考えても悪くない環境でした。
でも、今はそういう働き方が許されません。
もし、隠れてそういう勤務状態があり、会社に是正してもらいたいなら簡単です。匿名で労働基準監督署に電話すれば、一発です。
過重労働防止策として規制が厳しくなってきましたが、その結果、自分が若いころに経験した様な仕事の仕方を、今の若い技術者は経験できないということが残念です。
まさしくジャック・マーと同じ意見です。
本当に望まれる働き方としては次のような状況が理想と考えます
- 働き方に関する古い規制は撤廃していく。会社も従業員も多様な働き方を許容できる社会にする。
- 労働者は、自分に合わない働き方は我慢しない。転職や起業が容易で一般的な社会になる。
- 産業を発展させ雇用を生み出す。労働者がが容易に仕事を選べるだけの受け皿がある社会になる。
この中で注意しなければならないのは、結局、多様な雇用が維持されないとこのような社会の基盤が成り立たないということです。
製造業で考えた場合、国際競争での優位性をどのように維持できるか、ということになります。
昔は、日本の産業の成長に疑いがなく、終身雇用が根付き、雇用主の搾取・強要から従業員を守る必要がありました。またブラック企業という言葉も一般化しました。
労働基準法では、そのような背景に配慮した内容になっています。
しかし、今は時代の変化が激しいです。
日本の産業の競争力をどう維持・拡大するかを重要視し、そのために働き方を変えることも考えていくべきです。
技術者はどんどん転職しよう
時代の変化が激しいとは以下のようなことです。
- 人口減少と高齢化
- 新興国の台頭
- IT技術発展による産業構造変化
特にCASEによる自動車産業の激変
これらは、産業構造から生活様式まで大きな変化が起こることが想像されます。
私はこのブログで『ものづくり技術者の転職』を勧めていますが、これら状況への対処方法としても転職が有効だと思っています。
国や会社に期待しても、我が身を守れない場合があります。
そもそも技術者たるもの、自分達が時代を切り開いていく気概があっていい。
転職は自分の意志しだいでどの様にもできます。
- 技術者の転職は、多様な経験を得ることに繋がります。
- そして技術者をより成長させます。
- 技術者の流動化は、新産業の成長に寄与します。
- そして、就業環境適正化や収入増加に繋がります。
- ブラック企業を自然と淘汰する作用も発揮するでしょう。
日本の規制や企業の考え方が、昭和のまま時代に取り残されている様なギャップを感じることが多々あります。特に製造業でその傾向を強く感じます。
合理性に聡く、未知のチャレンジに目がない技術者が、自ら行動をしていくのが、今の日本を変える一つの有効な方法であり、さらには、自らがより充実した人生・働き方を得ることに繋がるのです。